【本のご紹介】
「グリーンファッション入門:
サステイナブル社会を形成していくために」
田中めぐみ著 繊研新聞社
トレンドを前提に成り立つファッション業界が、環境と共存し社会と調和するためにはどうすべきかを綴った本「グリーンファッション入門」を、弊社代表が執筆しました。
アメリカのグリーンファッションムーブメントの発祥や現状、なぜグリーンファッションが必要なのか、企業と消費者が採るべき対処法は何か、などを考察し、ファッションをグリーン化するための手法を、素材から生産方法、マーケティング、消費後まで、全工程に渡り紹介しています。
また、「オーガニック」のデザイナー、ジョン・パトリック氏や
「フューチャーファッションショー」を開催した「アースプレッジ」のレスリー・ホフマン氏、減農薬コットンを促進する「サステナブルコットンプロジェクト」のリンダ・グロース氏、繊維リサイクル企業「トランスアメリカズ」社の社長エリック・ストゥービン氏など、米グリーンファションデザイナーやグリーンファッションに取り組む企業・団体トップへのインタビューも多数掲載しております。
環境問題や貧困問題が深刻化する中、自社の売上や利益のみを追求し、環境や社会のことを考えずにビジネスを行う時代は、遠くない将来、終焉を迎えることになるでしょう。
限りある資源を提供する地球上で人類が生きていくためには、今一度新しい時代のビジネスの形を考え直さなくてはなりません。
ファッションは、人類が生存するための基礎的手段としては不必要なものといえます。
しかし一方で、現代の先進国に生きる我々にとっては、なくてはならないものでもあります。
だからこそ、環境や社会と共存可能な、新しい時代のファッションビジネスを再構築しなくてはならないでしょう。
日本は世界のファッション消費の大きなシェアを握っています。
日本人のファッションに対する意識・行動が変われば、世界に大きな影響を与えることができるはずです。
少しでも多くの方にお読みいただき、何かを感じ行動に移すきっかけにして頂けると大変嬉しく思います。
そして、この本が、世の中が少しでも良い方向に変わるきっかけになってくれればと願っております。
以下、目次とまえがきを掲載致します。
《目次》
グリーンファッションの誕生
- グリーンファッション・ムーブメント
- エコファッションからグリーンファションへ
- グリーンファッション・ムーブメントの立役者
- 大手参入による認知度向上
- なぜグリーンファッションなのか
- ファッションが環境に与える影響
- グリーンファッションの必要性
- グリーンファッションデザイナーの思考
- <Interview> Organic by John Patrick(オーガニック・バイ・ジョン・パトリック): ジョン・パトリック氏(デザイナー)
- <Interview> NAU(ナウ): イアン・ヨールズ氏(マーケティング担当・創業メンバー)
- <Interview> Ryann(ライアン): ライナ・ブライヤー氏(デザイナー)
グリーンファッションの生産
- 商品ライフサイクル
- 繊維
- 繊維の種類
- 天然繊維
- <Interview> Sustainable Cotton Project(サステイナブル・コットン・プロジェクト): リンダ・グロース氏(マーケティングコンサルタント)
- 化学繊維
- <Interview> Lenzing AG(レンチングAG): クリスティーナ・クラウツウィーザー氏(グローバル・マーケティング・コミュニケーション), アンゲリカ・グルト氏(コーポレート・コミュニケーションズ)
- 皮革
- 染色・仕上げ加工
- 染色
- <Interview> The Yarn Tree(ザ・ヤーン・ツリー): リンダ・ラベル氏(オーナー)
- 仕上げ加工
- 認証システム
- 化学薬品の国際規制・認証システム
- 製品の生産
- 環境に配慮したデザイン
- 付属品
- ローカルメイド
- フェアレイバー(公正な労働)
- フェアトレード
グリーンファッションの販売
- 小売業
- 小売りオペレーション
- 小売り形態
- マーケティング
- サステイナブルファッションショー
- <Interview> Earth Pledge(アースプレッジ): レスリー・ホフマン氏(代表)
- メディア
- グリーンウォッシュ
- 繊維の認証統合システム
グリーンファッションの消費
- 消費・利用
- 消費者による取り扱い
- 生産者による事前対策
- 廃棄・リサイクル
- リデュース
- リユース・リサイクル
- <Interview> Trans-Americas Trading Co(トランスアメリカズトレーディング社): エリック・ストゥービン氏(社長)
- ライフサイクルアセスメント事例
- 経済産業省/日本
- ケンブリッジ大学/イギリス
グリーンファッションの今後
- ファッション業界の未来
- 企業と個人の対策
- 企業の対策
- 社会全体のあり方
- 個人の対策
《まえがき》
ニューヨークでファッションビジネスに携わるようになり、いつしかこの業界が抱える構造的な問題に違和感を覚えるようになった。
「トレンド」という概念。それは、企業の売り上げを上げるためのツールであり、業界の誰もがそれを追求し、つかみ取り、広めるために膨大な時間を費やす。 もちろん他業界にもトレンドは存在するが、ファッション業界ほど顕著な例はない。半年毎に生まれては消えていくトレンドに合わせ、世界中で莫大な量の服や小物が作られ、そして捨てられていく。
資源は限りなく存在し、経済活動がもたらすものは繁栄であると考えられていた時代はそれでよかった。しかし、その時代はもう終わってしまった。猛威を振うハリケーン、一夜にしてすべてを水面下に沈めてしまう集中豪雨、広大な湖すら干上がらせる旱ばつ、枯渇する石油、薬が効かない新種ウイルス、飢えに苦しむ子供たち。こうした環境・社会問題は、主に私たち人類による経済活動が生み出したものであり、今対策を取らなければ、私たちの子孫が安心して暮らせる環境を残すことはできない。
このような事実を知れば知るほど、ファッションビジネスが抱える問題の深刻さが浮き彫りになっていった。服や小物を生産するためには大量の水、エネルギー、化学薬品、労働力を必要とする。しかし、環境を汚染し、人手を掛けて生産されたところで、ファストファッションの台頭とともに着用される回数は減り、流行に乗り遅れたものは一度も着用されないまま廃棄処分となる。今私たちが着ている服の多くは、寒さから身を守るといった人間の基本的欲求としての衣服ではなく、楽しむためのファッションである。そのために環境を破壊してよいはずはない。人間のエゴのために環境を犠牲にするとどうなるかは、現在私たちが直面している問題を見れば一目瞭然である。
では、どうすればよいのか。トレンドを無視し、人間の生理的欲求を満たすための衣類だけを作るのか。将来、さらに環境問題が深刻化すれば、それに近い状況になる可能性はあるだろう。しかし人は急には変われない。そこに至るまでの段階的な対策、あるいはそうならないための対策が必要であろう。
つまり、環境への負荷が少ない資源や方法で生産・流通・消費することである。ただし、デザインを妥協するわけにはいかない。環境にやさしいからといって、ファッションの楽しみを知っている消費者の行動を変えることはできないのである。現在と同じレベルのデザイン性を維持し、かつ環境への負荷を削減したファッションでなくては普及しないだろう。もちろん、化学薬品を使用せずにこれまでと同じレベルの製品を作ることは難しい。しかしそれを実現させることが 私たちに課せられた課題であり、これからの時代のファッションなのではないだろうか。
アメリカでは既に、普通の服と比較して何ら遜色のない、おしゃれだが環境に配慮したグリーンファッションが浸透しつつある。すべての人に行きわたるにはまだ時間がかかるだろうが、百貨店でもセレクトショップでもディスカウントストアでも、価格の高低を問わず手に入る段階に達している。環境先進国日本がこの分野に参入し、世界を牽引することは不可能ではないだろう。
長いファッションの歴史の中で、私たちは今変革の時代に生きている。これまでのファッションの概念を覆し、すべてのファッションが環境に配慮したものになれば、世界は変わるはずである。その一端を、技術力に長けた日本のファッション業界が担うべきなのではないだろうか。
そんな思いを抱くようになり、一介のコンサルタント兼ライターである私に何ができるのかを考えた。アメリカのグリーンファッション・ムーブメントとその手法、消費者一人ひとりの意識の高さ、本気で社会を変えようと真摯に生き抜く人々の姿、それらを日本の人々に伝えること。それが日本人である私がアメリカにいる意義であり、私に課された任務なのではないかと考え、本書を執筆するに至った。
執筆の機会を与えてくださった繊研新聞社の井出重之氏、良い本を作ろうと真摯に取り組んでくださった編集者の稲富能恵氏には、心から感謝の意を表したい。
本書を手にしてくださった方々が、ファッションをはじめ、現在世界が直面している数々の問題に向き合い、考え、行動を起こしてくださることを願ってやまない。
2009年5月 田中めぐみ
*お近くの書店、繊研新聞社、オンライン書店(Amazon.co.jp
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