「パタゴニアが投じた大きな一石」

商業界 2007年11月号

shogyokai0711

(冒頭一部ご紹介)

会社とは何か。何のために存在し、売上を上げ、成長し続けなくてはならないのか。
会社経営における根本ともいえるこの問いに対し、あなたならどう答えるだろう。通常ならば株主、顧客、従業員のため、あるいは本音として自身の地位や給料 を守るためと答える人もいるかもしれない。もしくは、そんなことは考えたこともなく盲目的に売上を上げる努力を続けてきた人もいるだろう。
現在の資本主義経済において、会社は単なる商品に成り下がってしまった。企業体質を改善して高値で売り、売却益を得ることのみを目的とした投資会社による 企業買収が横行し、企業はいかに売上や利益率を高め、株主に利潤を分配するかが最優先、若者はIPO後の一攫千金を夢見て起業する。皆、会社が何をどう売 ろうが構わない、利益さえ出れば良いのである。それは本当に正しい姿なのだろうか。恐らく誰もが心の中ではその答えをわかっているが、何もできないでい る。しかし、こうした現実に真っ向から反意を唱え、正しい姿を模索し、正しい道を歩むべく努力を続けている企業がある。アウトドアアパレルを製造販売する 「パタゴニア」だ。
同社は、企業が責任を負うべき相手は、資源を生み出すもととなる健全な自然環境だと明言する。それがなければ株主も顧客も社員も企業自体も存在し得ないか らである。故に同社は環境問題解決に向けて他社の手本となるべく行動し、環境団体に寄付するために売上を上げ成長する。会社が株主のために在るというのな ら同社の株主は「地球」だと公言する。会社の業績はその年に成し遂げた善行に依存し、生み出した利益は「顧客がパタゴニアの行いに投じてくれた信任票」だ という。
あまりに立派過ぎる言葉の数々に、環境対策を事業内容とするNPOや宗教団体ではと疑ってしまう節もあるが、パタゴニアは2006年度売上高2億 7,000万ドル(約314億円)、従業員1,000人を抱える株式会社であり、毎週のように事業買収の依頼が来るほどの優良企業である。企業の面目のた めに環境対策部門を設けてお茶を濁しているわけでも、口先だけの見かけ倒しでもない。環境を守るため、毎年売上の1%を環境団体に寄付し、できる限り環境 を害さない事業運営を本気で行っている。
単なる環境オタクと片付けるのは早計である。パタゴニアの経営戦略は昨今MBAの授業で取り上げられるようになった。「自然資本主義(Natural Capitalism)」という90年代に提唱された自然環境を資本と考える先鋭的な概念が存在するが、パタゴニアの経営はそれを実現可能な範囲で環境保 護に基づいて実践する、いわば環境経営ともいうべき新しい時代の経営手法なのだ。その一貫した経営・事業戦略に多くのメディアが特集を組み、同社が開発し 続ける環境に優しい製品の生産方法を学びにウォルマートやナイキといった巨大企業が視察に訪れる。さらに、昨年「社員をサーフィンに行かせよう」という本 を出版して以来(日本では今年出版)、創業社長であるイヴォン・シュイナード氏の元にはイエールやスタンフォードといった著名大学からMBA講師としての 引き合いが殺到している。