「フェアウエイマーケットとゼイバーズが愛される理由」
商業界 2007年05月号
(冒頭一部ご紹介)
多くの日本の小売企業がアメリカに視察にくる中、最近特に注目を集めている店がある。ニューヨークにある フェアウエイマーケットとゼイバーズ。いずれも創業は約70年前と古く、前者は四店舗、後者は一店舗のみの小規模店だが、ニューヨークの小型店の中でも市 民から絶大な支持を集め、ホールフーズやトレーダー・ジョーズといった最近進出した大型スーパーに屈しない強さを有する。日本で都市型スーパーの小型化が 進む中、両店を視察する日本企業が後を絶たない。両店が競合に負けない強みは何か、いかなるやり方で顧客の心を掴んでいるのかを以下分析する。
まずはニューヨークの食品スーパー事情に触れておこう。
ニューヨークは米他地域とは異なる特殊な点が多々ある。中心部のマンハッタンは山手線内と同じ程度と狭く賃料が非常に高い。2004年にオープンしたホー ルフーズ、タイムワーナー店(60,000スクエアフィート(約5574㎡))は、ビル地下にもかかわらず年間賃料は2,700万ドル(約32億 4,000万円)と言われる。また、他地域に比して所得レベルが高いため食に対する質への訴求は強いが価格へのこだわりは比較的低い傾向があり、世界中か ら人が集まるため様々な民族や宗教が混在し、食の嗜好が非常に幅広い。仕事や勉強による一時的な滞在が多いため世帯数が小さく外食中食利用が多い。さら に、電車やバスなど公共交通手段が発達しているため、車王国アメリカにおいて唯一車がなくても生活に困らない場所であり車保有率が非常に低い。
こうした他地域とは異なる特徴ゆえ、全国区の大手食料品チェーンはニューヨーク進出に二の足を踏み、巨大ディスカウントストアのウォルマートやターゲットですら未だマンハッタンには存在していない。
ニューヨークの食は、数限りなく存在するレストランと、惣菜を中心に食品や日用雑貨を扱う旧式のコンビニのような「デリ」と呼ばれる小型店、生活用品を中 心に菓子類や乾物を扱うドラッグストア、そしてマンハッタンもしくはニューヨーク近郊にしか店舗のないローカルの中小規模食品スーパーチェーン店が支えて きた。中小地元チェーンでは70年代後半から80年代にかけて高級志向が始まり、90年代に入ってベジタリアンやオーガニックフードを好む人口が急増した ことからグルメスーパーが乱立、一般的なスーパーが苦境に立たされた。さらに2001年にはホールフーズ、06年にはトレーダー・ジョーズと全国区の大型 オーガニックチェーンが参入し、市内の賃料高騰も手伝って、中小ローカルチェーンが続々と閉店に追い込まれている。
そんな状況下でも勢いが衰えるどころか益々元気なのが、フェアウエイマーケットとゼイバーズなのである。
両者は、マンハッタン内アッパーウエストというユダヤ人を始めとする古くからの移民と若い高所得者層が入り混じる地域のブロードウエイという目抜き通り沿 いに道を数本隔てて位置している。エリアは激戦区で、両店以外にもシタレラやウエストサイドマーケットなど競合が並ぶ。
いずれも家族経営という点は同じだが形態は大きく異なる。フェアウエイは安さと鮮度が売りの食品全般を扱うスーパーマーケット、ゼイバーズはスモークサー モンやチーズ、コーヒーなど特定食材を中心としたグルメ食材店であり、近隣にあっても顧客層は異なる。しかしいずれも顧客の心を掴んで離さず、同エリアの 不動産会社は挙って入居者募集の広告に「フェアウエイとゼイバーズ至近」をアピールする。